野口龍斗の学生服畑
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さいしょのぺーじにもどる

短編小説

タイトル:アイツとスープ

作 野口 龍斗

2026年2月9日

 十年。長かったようで、終わってしまえばどうということはなかった。証拠などない、誰にも知られることなどないだろう。
 聞いて欲しい。俺が重ね、償うことのない俺の罪を。

 すべてはアイツの死から始まった。
 おもえば、生前から頼まれていたことではあった。あったが、実際にそんなことをすることになろうとは思っていなかったんだ。
 あれはアイツの葬儀が終わってしばらく経った頃だったか、ある荷物が届いた。
 「行政書士…?」
 小包に貼られた紙の差出人には行政書士の文字があった、いったい行政書士様が俺になんの用だというのだ。
 小包の中には、白い陶器と手紙。俺は察した。冗談だと思っていたが、アイツは行政書士様なんかと契約してまで、有言実行ってヤツを行ったのだ。はじめは理解に苦しんだ。到底許されないんじゃないかと思った。俺の道徳とアイツの頼み事が俺のなかをぐるぐるとぐちゃぐちゃにしていった。俺は悩み続けた。悩んで悩んで悩んだ。
 俺とアイツとは長い付き合いで、散々世話になった。小学校の時のいじめがなくなったのも、今までの成績が保てたのも、大学に入れたのも、借金を返済できたのも、再就職できたのも、調理師免許が取得できたのもアイツのおかげだ、妻と別れた時の裁判だってアイツのおかげだし、俺が今、何不自由なく生活できているのも、いままで乗り越えてきたすべてはアイツのおかげなんだ。

 ならばそれが如何に狂った頼みであれ、最初で最後のアイツの頼みくらいは答えてやらなくてはならないと。そう思ったのだ。
 思い立ってからの行動は早かった。今の時代インターネットがある。インターネットってのは凄いもので、検索サイトに文字を打ち込めば知りたい情報が山のように出てくる。最近では求人サイトってのも当たり前になっているようだ。
 アイツの頼みを叶えるべく俺は俺たちが育った市の給食センターに就職した。

 飲食店の経験があるとはいえ、給食センターというのは思っていたよりずっと過酷だった。
 最初の数ヵ月くらいはひたすらに調理補や下処理などをしながら食品衛生、温度管理、アレルギー対応、いろん研修を受け、そうして、半年ほどかけて俺はようやく一人前になることができた。

 再三申し出たこともあってか、俺の希望は通り、スープの担当を任されることになった。これでようやく俺は動けるというわけだ。
 バレれば、刑事罰の対象だろう。

 だが、当然だが誰も疑うことはなかった。真面目に、仕事のためだけにそこにいると俺自身思い込むことができた。
 はじめの一回は、手が震えた。鍋の暑さもあってか、汗が背中や額を伝ったのがわかる。ほんのわずかな量を投入した。案外ばれないものだ。そうして二回目、三回目と繰り返した。最初の頃はバレたかもしれないと、バレるかもしれないと散々おびえたものだが、一年も過ぎれば慣れてくる。二年、三年、五年、六年、ここまでいくと罪悪感も感じなくなってくる、慣れとは恐ろしい。いくら異常なことでも繰り返せばそれは日常になっていき溶けこんでいく、おれが鍋に入れたものと同じように。見えず、感じ取ることもできず、だが確実にそこに存在するのだ。俺の中の罪悪感と鍋の中のソレは紙一重なのかもしれない。 俺は繰り返した、誰にも知られず、ただアイツの希望を叶えるためだけに。


 十年目の冬、陶器の中身は空になった。終わってしまえばどうということはなくなんら特別なことはなかった。なにも。

 俺はアイツの望みを達成した。完遂したのだ。アイツはこれで満足だろうか。これでよかったのだろうか。
 もう証拠はどこにもない。誰にも気づかれることはない。きっと罪に問われることなく闇の中へ消えていくだろう。
 子供にしか興奮できなかったアイツの最後の望み、アイツの願いは女子小学生との一体化だった。
 アイツはこの市の小学生の中で生き続ける。十年の年月だ。俺が一度に担当していた複数クラス分のスープ…アイツの骨を取り込んだ小学生は少なくないだろう。

 終わった今、俺がなにかをどこに告発したとしても妄言としか受け取られない。

 俺は今日、給食センターを退職した。

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 野口龍斗